大小島真木


描くことを通じて、鳥や森、菌、鉱物、猿など異なるものたちの環世界を、自身に内在化し物語ることを追求している。作品とは、思考を少しずらしたり、視野を少し変えてみせたりすることの出来る“装置”のようなものであると考え、ペインティング、壁画、造形、映像などを使って表現活動を行う。

《綻びの螺旋》2021

©️ 2021 Maki Ohkojima Courtesy of Kadokawa Culture Museum Photo by Shin Ashikaga

作家ステートメント

2020年、
世界に結界が張り巡らされた。
到来した災禍から身を守るために、私たちはその結界のうちに引き籠ろうとした。
束の間の孤絶、その先で再び元の世界を取り戻せるはずだった。
しかし、その期待は裏切られた。張り巡らされた結界は完全ではなかった。

綻んでいた。
ほつれた縫い目、蟲食いの穴からは、無情にも災禍の風が吹き入り、
結局、今もなお私たちはその業風に取り巻かれている。
そして、繕っても生じてしまう結界の綻びを、性懲りもなく縫い合わせ続けている。

呪われし綻び。
憎たらしき綻び。
しかし、私たちに孤絶を禁ずるその綻びは、一方で、私たちを孤絶から救いだす糸口でもあったはずだ。
もしもこの壁が、この窓が、この皮膚が、この膜が、完全に閉ざされた結界なのだったとしたら、
と想像してみる。 私はたちまち窒息してしまい、おそらく一瞬だって生きていくことはできない。
私だけじゃない。
あらゆる命がそこでは死に絶えてしまうに違いない。
綻びのために私たちは孤絶しえない。
綻びのために私とあなたは無関係ではいられない。
祝福されし綻び。
悦ばしき綻び。

私たちに死をもたらす綻びは、同時に私たちの生の条件でもあるのだ。
天岩戸のように堅牢で重厚な外観をもつ角川武蔵野ミュージアム。
外界から隔たれ、清潔さの行き届いたこの空間にさえ、目には見えないだけで無数の生命が蠢いている。
それらを運ぶのは私たちかもしれない。
私たち自身もまた動く綻びなのかもしれない。
もし、綻びから吹き入る風に傷ついたなら、結界を張り直すより前に、
まずはその傷口にそっと手をかざしたいと思う。
誰も孤絶していない。
その綻びを綴じることはできない。

【アーティスト略歴】

1987 年東京生まれ。現代美術家。異なるものたちの環世界、その「あいだ」に立ち、 絡まり合う生と死の諸相を描くことを追求している。 2017 年、アニエス・ベー主宰による海洋調査船タラ号のプロジェクトに参加。 主な受賞に、2009 年トーキョーワンダーウォール賞、2014 年VOCA 奨励賞受賞。 近年の主な個展に「骨、身体の中の固形の海。植物が石化する。」 (HARUKAITO、東京、2019)、「 鯨の目 」(パリ・アクアリウム、フランス、 2019)など。 公開制作「万物の眠り、大地の血管」(府中市美術館、2018)。 主なグループ展に、「森と水に生きる」(2021 年、長野県立美術館)、 「いのち耕す場所」(青森県立美術館、2019)瀬戸内国際芸術祭など。

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