館長通信

写真:中道淳

No.842024/07/15

本と遊ぶために(5)「目次」と「見出し」に注目する

どうも読書は苦手だと思っている人はたくさんいます。本を見ると難しそうに感じる人も少なくない。きっと小学校で教科書をむりやり読まされたり、読書感想文を書かされたのがイヤだったのでしょう。苦手があるのは仕方がないことです。跳び箱や鉄棒や徒競走が苦手なこともあります。

けれども、マンガはどうですか。ラノベ(ライトノベル)やゲーム攻略本やアイドル本はどうですか。ついつい夢中になったりしているかもしれません。子どもの頃、絵本や図鑑に夢中になったこともあるでしょう。本は、私たちを未知の世界に連れていってくれる方舟(はこぶね)なのです。

方舟はいろいろな形をしています。日本では単行本、新書、文庫本など、大きさも異なります。これは本が「紙」でつくられているからです。紙には製紙段階でサイズが決まっていて、本はそのサイズのちがいに応じて、さまざまな判型(はんけい)の方舟を送り出してきたのです。大型本や写真集などは特別の判型になったり、豆本などが趣味でつくられることもあります。

本というもの、よく見るととても不思議な組み立てで出来ています。まずページが折りごとにたくさん束ねられていて、それが背中で綴じられている。その束が表紙やカバーでくるまれて、そこにタイトルや作家や著者の名がしるされ、たいていはその本の中身のイメージを象徴するヴィジュアルがデザインされています。帯がついて、その本の魅力や特徴がアピールされていることは、日本の本の特徴です。帯は腰巻などとも言います。

ページを開くと、見開きになります。ダブルページと言うのですが、洋の東西を問わず、読書行為はこのダブルページを目で追い、手指でページを次々にめくりながら進みます。ページには文字や写真や図がレイアウトされています。文字は行(ぎょう)を単位に並び、1ページに十数行から二十数行ずつが列をなします。本はこのようなページネーションで成立しているのです。

こうして本文が構成され、それが150ページや300ページも超えるので、なんだよ、難しそうだなとちょっと怯むのでしょうが、よく見ると、本には必ず本文の前に「目次」が一覧されているのです。目次は英語ではコンテンツ(contents)と言いますが、コンテンツとは「内容」とか「中身」という意味でもあって、ということは、目次にはその本の概要がちゃんと示されているということなのです。

そこで、本と愉快に遊ぶための極意、第1弾です。選んだ本の本文を読む前に、まずは目次を見ることを奨めます。目次はその本のアウトラインや要約を示しているからです。

本屋さんでめぼしい本を手にとると、多くの人がパラパラとページを繰っているようですが、それも結構ですが、中身(コンテンツ)が気になるのなら、まずは目次をぜひ見てください。せいぜい数分ですむはずです。

たとえば岩波新書の永田和宏の『タンパク質の一生』が気になったとします。タンパク質なんて難しそうですが、目次を見ると構成が一目瞭然になるように並んでいます。細胞とタンパク質の関係から始まって、なぜ生命にとってタンパク質が重要なのか、とてもわかりすく目次化してあります。また戸矢理衣奈の『エルメス』(新潮新書)を読みたいと思ったとします。160年の伝統をもつエルメスの歴史と狙いと日本市場における戦略が目次を見るだけで手にとるようにわかるはずです。少なくともアウトラインはすぐわかる。

このアウトラインがアタマに入るということが、このあとの読書にとって大事なのです。というのも、読書は一行ずつページを追うものなので、途中に混乱がおきかねない。それをあらかじめ目次をアタマにおきながら読めば、ずっとラクになるからです。そのうえで店頭でパラパラめくってみてください。たんに手に取ったときより、読みたい本かどうかが100倍ちがって感じられるはずです。

ところで、本には文中に「見出し」(ヘッドライン)が入っていることが少なくありません。新書には必ず入っています。これを作成するのは編集者です。極意、第2弾は、この見出しに注目することです。

見出しには章見出し、節見出しとともに、小見出しもあります。適当な分量ごとに入ってくるフラッグのようなもので、行先に向かうための意味のバスストップにあたります。この小見出しを辿るだけでも、一冊の本のほぼ全容が掴めます。新聞の見出しを見て本文記事を読むかどうかを決めるように、本は見出しの読み方でいくらでもおもしろくなるのです。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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