館長通信

写真:中道淳

No.792024/04/01

クイズ、リドル、パズルはお好き?

謎トレや脳トレが大流行している。いまやスマホの中は各種のクイズや漢字検定や風変わりな脳トレでいっぱいだ。まるでスポーツジムで体力を鍛えるように、脳力を鍛えるように仕向けられているようだが、さあ、それで脳力なるものが鍛えられるのかどうか。だいたい脳力って何なのか。

クイズなら新聞・雑誌時代やラジオ・テレビ時代からずっと流行していた。我が家でもじいさんや母が鉛筆片手に新聞や週刊誌に載っているクロスワードパズルをよく解いていた。

ふりかえってみると、初期のラジオ・テレビ時代のクイズ番組は単純だった。世間の「物知り」が答えて視聴者を感心させるというもので、それがしだいに視聴者参加型になって、高校生や主婦が回答者になるようになると早押しクイズになり、やがてパネル陣地取りや間違うと椅子が回転して落ちるような仕掛けや趣向などが加わっていった。そしてついにはタレントや芸能人が回答席の雛壇に並んだのである。クイズって、いったい何なのだろう。

そもそも謎々は古代から話題になっていた。流行もした。フェキオン山を通りかかる者たちが怪物のスフィンクスから謎々を出され、それに答えられないと食われてしまうという伝承が有名だ。日本でも古今集時代には「なぞなぞ含みの歌合せ」が愉しまれていた。

謎々はもともとはリドル(riddle)という。問いの言い回しにちょっとした暗喩などを入れて、少々惑わせるお題をつくっておくもので、いわゆる頓知をきかせないと答えられないこともある。クイズ(quiz)はこのリドルの謎解きを競技的あるいはゲーム的に模様替えをしたもので、サロンやパーティの場で発達した。一同でQ&Aに向かってみるわけだ。

もうひとつ、パズル(puzzle)という様式があって、これはジグソーパズルやクロスワードパズルに代表されるように、欠けたピースを集めて完成品に向かうというものだ。穴あき計算が有名な数学パズルはこのファミリーになる。

こうしたリドルやクイズやパズルが生まれてきた背景には、知識の牙城に対する揶揄や注文や批判が手伝っていた。専有された知識よりも、むしろ「知恵」を分かちあおうではないかという庶民の気運や持たざる者の矜持がそれなりに動いてきたのではないかと思われる。

ということは、リドルやクイズにはどこかに訳知りの知識に対して、むしろ「粋なはからい」や「洒落の気分」で逆襲したいという気分があっただろうと思われる。これは脳力などという野暮なものではない。日本でいえば俳諧の地口や落語の小話に近いもの、まさにファッションやアクセサリーやヘアスタイルのおもしろみに近いものなのである。つまりは「おしゃれ」なのである。ラップのリリックなのだ。

ところが東大生のクイズ王がタレントになったり、SNSでやたらに脳トレが流行するようになって、洒落や粋やサロン性が遠のいた。いささか退屈なことである。とくに、三択問題のクイズは、正解を知ったのちも、実は何が正答だったか覚えていないものなのだ。これでは何のためのクイズだったか、わからない。そろそろ「知恵」の復活が企まれてもいいような気がする。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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