館長通信
写真:中道淳
No.582023/05/15
生成AIの可能性
あっというまにChatGPTが話題になった。オープンAI社が開発したチャットサービスで、リリース僅か2ヶ月で1億人のユーザーを突破した。ユーザーが知りたいことについて質問を入力すると、まるで訳知りのセミプロ・ライターかコンサル屋のように回答を作成してくれる。さっそく私の周辺の若いクリエイターやエディターが出来を賞味していたが、そこそこのレベルに達しているので驚いていた。
こんな便利なものが普及すると、学生やビジネスマンが使いまくるようになりはしないか、質問によっては危険な回答が続々と出てきてしまうのではないかといった危惧も出始めている。
機構やしくみはとくに複雑ではない。小説の自動生成ソフトやゲーム中の会話生成のためにつくられたGPTという言語モデルを応用したもので、もともとなめらかな日本語(英語)を生成できるところへもって、ネット上の厖大な類似テキスト例をAI学習した成果を反映できるようにした。
だから技能的には生成的人工知能(ジェネラティブAI=生成AI)なのである。ただ、操作をやけに簡便にした。ユーザーはプロンプト(命令)するだけでいい。「リンゴって何? 成分は? リンゴの料理のベスト3は? リンゴが出てくる昔話・小説・オペラは?」というふうに聞いていけばいいだけなのだから、らくちんだ。
しかもこれらについてテキストライクに答えてくれる。実際には答えたのではなく、類似知をGPTモデルの起承転結に合わせて、そのつど即刻合成しているのだが、この程度でもふだんの会話をはるかに超えるスピードと説得力になるので、ついつい驚いてしまうのである。
なぜ賢く感じられるのかというと、GANとGPTという二つのフレームが競争学習するように構成されているからだ。
GAN(敵対的生成ネットワーク)は、新しいデータサンプルを作成するネットワークとそのサンプルが本物か偽物かを判定する識別ネットワークからできていて、これらの経緯をGPT(生成的事前学習トランスフォーマー)が参照しながら、より「もっともらしい」組み合わせに向かう。
GPTがそうなれるのはGPTの基体が大規模な人工ニューラルネットワークでつくられているからで、おまけにラベル付けのないテキスト群を集積させて巨大データセットであらかじめ訓練されているせいだった。
このような生成AIのしくみは、プロの文筆家や作家や編集者が身につけている技能に近い。また作曲家や画家の曲づくりや絵づくりのしくみとも近い。実際にも作家の習作プロセスにはGANやGPTが動いていたとみなせる。たとえばバルザック、横山大観、高浜虚子、クィンシー・ジョーンズ、宮尾登美子、坂本龍一は、アナログかデジタルかはべつにして、自分なりのGANやGPTを工夫して、表現力を磨いたはずだった。
ただ作家や作曲家や画家はプロンプターになりたくて、文章に挑んだり曲を工夫しているのではない。またいつまでもGANやGPTに頼るわけでもない。AIは役に立つ優秀な学習ツールやアプリだとは思うが、そのAIからいつ離れるかということこそ、愉快なことなのである。
角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)