角川武蔵野ミュージアム

館長通信

写真:中道淳

No.462022/11/15

どんな情報も生命と関係する

ミュージアムが展示対象としているものは何であれすべて、広い意味での「情報」である。そう思っていただいていい。建物もアート作品も額縁も、棚に並んでいる書物もプロジェクション・マッピングされた映像も、数々の展示パネルの言葉もミュージアム・グッズの色も味も、いろんな情報がなんらかの形に向かってそれぞれ変形したものなのだ。

その情報はどこから来たのかというと、歴史文化、社会現象、環境情報を通して、われわれ自身のさまざまな情動活動がペンや紙やドローイングや粘土やパソコンを介して転写されたり表現されたりしてきたものたちで、それらがさまざまな時代文化の中で作品化、メディア化、商品化したものだった。

ミュージアムのどんな展示物の奥にも、必ずそうした歴史・社会・環境・メディア・商品が控えていると思われたい。何であれハイ&ローなのだ。

では、そんな多様な情報の「もと」はどこにあったのかというと、もともとは何十億年をかけた生命進化の渦中からやってきた。

地球上に生命が誕生したのは、宇宙熱力学的なエントロピー増大の法則にさからって、遺伝情報を複写するサイクルが生じたからである。このことを量子力学者のシュレディンガーは「生命は負のエントロピーを食べた」と説明した。

これで(生命体が誕生したことで)、いっさいの情報が動きだした。RNAやDNAは情報の組み合わせ機能を保存し伝達する役目を担い、まずは光合成を始めて海中や陸上に植物を繁茂させた。そこに炭酸同化作用はできないけれど呼吸はできる動物が化学的に進化してくると、動物の内部に知覚神経系がしだいに発達して、生体情報を編集したり、加工することが可能になった。

われわれの祖先がホモサピエンスに向かっていく途中のどこかで、この「情報をめぐる編集と加工の名状しがたい能力」は、驚くべきことに、内側からは「言語」を生み、外側には「道具」を作るようになっていった。言語と道具の出現によって、生命系の渦中に誕生した情報はついに外部(=社会)に定着するようになったのである。

そのうちなんとホモサピエンスは、植物はむろん、動物にも乏しかった「意識」や「心」をもった。脳の誕生だ。

こうして情報は、地球の物理から生物たちの生理をへて人間の心理に及んだのである。そこへ歴史や社会が、文学やアートや音楽やファッションが、さらには新聞・雑誌・写真・映画・コンピュータが加わって、この物理と生理と心理をあらわせるようになった。いまでは、そういう情報ばかりが情報の様相だと思われている。

ミュージアムは、以上の情報の流れのいずれにも対応する。ミュージアムは地球と生命と意識の歴史の反映であって、それらにまつわる全情報の歴史のための「蔵」(ドキュメンタル・アーカイブ)なのである。とはいえミュージアムは植物園や動物園や水族館ではない。生きものは博物館法によって制限されている。そのかわり、ミュージアムはそれらのすべてにまつわる二次情報や三次情報を扱っている。ミュージアムは「情報時空の館」なのである。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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