館長通信

写真:中道淳

No.312022/04/01

互いを鍛える三つの学習法

私たちは「ものごころ」がついてからというもの、多くの学びを体験してきた。幼稚園で教わったこと、小学校で習ったこと、母親に窘(たしら)められたこと、本を読んで愕然としたこと、登山で苦労したこと、失恋で味わったこと、いずれも学びである。

動物行動学でノーベル賞を授与されたコンラッド・ローレンツは「学びは刷り込み(インプリンティング)である」とみなした。動物たちは周囲の状況に対する反応を特定の短期間で学習し、それを長期間にわたって維持するようにしているというのだ。ローレンツの見解は「種」にあてはまることで、人間のようにさまざまな集団や組織に属し、それぞれが多様な個性を発揮する社会では、「刷り込み」だけでは学びが獲得できないことのほうが多い。

そこで世の中には、いろいろな学習法が発達してきた。ピアノの学び方、外国語の学び方、簿記の学び方、日本舞踊の学び方、株の学び方、料理の学び方、マジックの学び方、新体操の学び方、どんな領域においても独特の学習法が工夫されてきた。 そこには先生やコーチの指導がある場合もあれば、競技に勝つためのトレーニングもあれば、サービスや「もてなし」を発揮させるための学習法もある。学習法が違えば、学習成果に違いも出る。ピアノの習熟がマジックに応用できるとはかぎらないし、新体操のエクササイズが日本舞踊に活かせるとはかぎらない。

さまざまな学習には共通性もある。反復や暗記はたいていの学習法にとりこまれているし、グループ・ディスカッションのような方法も、多くの学習法がとりいれている。

コミュニケーション科学と情報科学の先駆者であったグレゴリー・ベイトソンに『精神の生態学』という名著がある。その中に組織が獲得すべき3段階にわたる学習法が述べられている。

学習Ⅰは、反復と報酬による学習である。ある集団内で目的に向けてメンバーたちが最初にとりくむ「原学習」のことをいう。これは初期効果は上がるが、倦きやすい。ときどきメンバーを交替させる必要がある。

学習Ⅱは、学習することを学習するためのもので、再学習力を強化する。ここでは個々の知識の獲得やその応用ではなく、自分がかかわっている「場」を学習対象に入れこんで文脈的理解を学ぶことが期待される。「第2次学習」という。ルール変更に気がつく可能性が高い学習だ。

学習Ⅲは創発的な学習である。チームが脱皮あるいは変革していくときに効果を発揮する。たいていは外部から新たな刺激が入ってきたり、意外な異質性が発見されることによって、この学習力が大いに起動する。創発とは「そこにはなかった方法」が生まれることをいう。

ベイトソンは3つの学習法を通して、集団や組織には「相互性」と「相補性」が重要であることを強調した。とくにチームが分裂しそうになったときは、学習Ⅲが有効だと説いた。21世紀の社会にも新たな創発学習が求められている。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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