角川武蔵野ミュージアム

館長通信

写真:中道淳

No.262022/01/15

出版文化とミュージアム

先だって帝国ホテルで令和3年度の野間出版文化賞の授与式があった。『進撃の巨人』の諌山創、くも膜下出血の大病を克服した伊集院静、小説の音楽化を推進するYOASOBIとともに、角川武蔵野ミュージアムが特別賞として選ばれた。選考委員の林真理子・茂木健一郎・野間省伸さんが強く推してくれたようだ。ありがたく頂戴した。

出版文化賞をミュージアムが受賞するのは初めてのことだという。KADOKAWAグループが版元であることも手伝ってのことかもしれないが、林さんや野間さんの説明では、図書文化がもつ多様な様相をミュージアムの各所に組みこみ、従来はスタティックだった本棚にすこぶるダイナミックな表情をつくりだしたこと、およびアートや博物と本とが隈研吾設計による異様な空間に同居するかのように展示されたことが評価されたようだ。

ふりかえって古代このかた、本には何でもが入ってきた。歴史も入る、小説も入る、事件も入る、アートも入る、政治も経済も入る、物理学も映画も入る、サッカーも格闘技も入る、コラムもマンガも入る、料理もファッションも入る、日記も手紙も入る。おそらくどんなモノもどんなコトも、さまざまな本の中に入ってきたはずである。

しかしながら、そうやって仕上がった本は、あくまで表紙をもった本の姿として図書館や書店に並び、読者の手元にも本のまま届いてきたわけである。本の中に入ってきたコンテンツやジャンルや人物が、本から外に出てくるということはなかった。

ところが電子書籍やスマホの時代になると、本のページからさまざまなシーンや出来事の映像やキャラクターを飛び出させることが可能になった。まだその試みは始まったばかりだが、私が角川武蔵野ミュージアムの「エディットタウン」などで試みたのは、まさに本がページに綴じこめてきたコンテンツに促されて、動きだしたらどうなるのかということだったのである。いわば「本はじっとしていられない」ということだったのである。

そう思ってあらためて今回の出版文化賞を受賞した4者をみると、『進撃の巨人』はすでにページの外に躍り出しているし、YOASOBIは物語の中から歌詞と楽曲をもって歌い出し、たくさんの本を世に問うてきた伊集院さんは病魔に倒れたのちの書き手としての陽気な勇姿をリアルに見せたのである。これらはいずれも「本はじっとしていられない」が始まっていたことを暗示する。

私はかつて丸善・丸の内本店で「松丸本舗」というスペースを演出したことがあるのだが、そのとき年始の「本の福袋」を売り出してみたことがある。美輪明宏、いとうせいこう、山本耀司、前田日明、やくしまるえつこ、福原義春、上野千鶴子、しりあがり寿、コシノジュンコ、鶴田真弓さんたちに、数冊のお気にいり本とおみやげを選んでもらい、それらをおめでたそうな袋に入れて並べてみたのだ。発売2日間ですべて完売した。おそらくみんなが袋から飛び出してきた「本」にびっくりさせられたかったにちがいない。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

Pagetop