角川武蔵野ミュージアム

館長通信

写真:中道淳

No.252022/01/01

もういくつ寝るとお正月

新型コロナウイルスが急速にオミクロン株に変異して世界中に拡っているなか、日本列島は一斉に正月に突入します。初詣、門松、締め飾り、鏡餅、お屠蘇、お雑煮、おせち料理、お年玉、年始まわり、獅子舞、七草粥、どんど焼きなど、正月独特の華やかな行事や習俗が各地で祝われます。日本が誇る「ハレの行事」です。わがミュージアムも少しだけお休みしますが、傍らの武蔵野坐令和神社では心ゆくまで初詣をしていただけます。

もともと「正月」は旧暦1月全体の別名で、正月行事は1月15日までの松の内のあいだに行われていたものなのですが(それ以降は小正月)、江戸時代半ばに1月7日をもって「飾り納め」とする旨が幕府からお達しされ、以降は七草粥までを松の内として言祝ぐようになりました。この飾り納めでいろいろなお飾り(正式には左義長)を火にくべるのがどんど焼きです。

正月にはみんなが「明けましておめでとうございます」と挨拶します。いったい何がおめでたくて、何をお祝いしているのでしょうか。歳神(としがみ)が恵方(えほう)からやってくることを祝っているのです。その神をお迎えしているのです。歳神はその年の方位を決めている神で(それが恵方)、そもそもはその恵方に向けて門松や締め飾りをしたものでした。

歳神は山や海や見知らぬ国などの、遠くから訪れてくる神さまです。日本の神々は八百万(やおよろず)の神と言われてきたように、さまざまな自然現象や収穫物や出来事や祖霊を象徴するアニマの群ですが、大半が外来神で訪問神です。すなわち、どこかに常住している神さまではなくて、何かの折りに降臨したり来訪したりする神なのです。ホスト(主)の神ではなくて、ゲスト(客)の神なのです。宗教学では客神といいます。

民俗学者の折口信夫は、このような特徴をもつ日本の客神をマレビトと呼びました。その客神のひとつに、一年ごとに別の方位(恵方)からやってくる歳神がいらっしゃるわけです。

歳神を迎えるにあたって、里人はケガレを祓い、心を浄めて正月支度にとりかかります。おせち料理のように大晦日までにあらかじめ御馳走を用意しておくのは、正月に火を炊いたり、バタバタしたりするのを避けるためでした。

年始に歳神を言祝ぐという行事は、稲作畑作が列島各地に定着してからのものだと思われます。お餅による雑煮を祝うのも稲作の成果を祈るためでした。とはいえ日本の各地には「芋正月」の風習ものこっていて、そうした地域ではお餅以外の主食で祝ったりしてきました。

歳神は松の内がすぎると、どんど焼きとともにまた遠方に帰っていきます。これは日本の神が必ずや「迎え」と「送り」を伴っているからです。神さまが帰っていかれると、旧暦では春、すなわち「植物の充実」がやってきます。立春です。このとき畑の象徴的な収穫物である豆をもって節分(季節の変わり目)を祝い、その歳の恵方をあらためて確認します。いまでは恵方巻のお寿司をみんなで祝います。

年の暮から正月までを、俳句の季語では「去年今年」(こぞことし)と言います。年末に大掃除(大祓い)をし、大晦日にお寺で除夜の鐘を撞き、元朝に神社で初詣をします。去年今年には日本独特の「神仏習合」という様子が詰まっているのです。正月には日本全体が「時のミュージアム」化しているのです。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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