角川武蔵野ミュージアム

館長通信

写真:中道淳

No.232021/12/01

浮世絵・マンガ・アニメーション

ミュージアムが1周年を迎えた。新型コロナによる自粛や規制が続くなかでの難しい1年間だったけれど、マンガ・ラノベ図書館とEJアニメミュージアムが少しずつ新たな展開を見せるなか、1階のグランドギャラリーではダニーローズ・スタジオによるダイナミックでマルチプルな画像展示「浮世絵劇場」が始まった。さいわい大反響のようだ。4階のエディット アンド アートギャラリーの俵万智展も好評だ。

日本には昔から「画像を動かしたい」「多視点で絵を見る」という表現衝動が旺盛だった。なかでも中世を席巻した絵巻と、江戸文化を飾った浮世絵が世界を驚かせてきた。

絵巻は和紙や絹布を継いで長大な巻物状にしたもので、絵詞(えことば)と絵柄が交互にあらわれるようになっている。『源氏物語絵巻』『伴大納言絵巻』『信貴山縁起』『北野天神縁起』のように、物語を追ったり神社仏閣の縁起(由緒)の不思議を見せたりするものが多く、その見せ方にも独特の工夫がなされてきた。

寺社や屋敷などの建物は「吹抜け屋台」といって上や斜めから覗いても室内が透けて見えるように描き、相互の場面展開は斜めの切断軸でつなぎ、かつ登場人物は「異時同図法」というのだが、同一画面に同一人物が何回出てきてもかまわないように描いたのである。

この手法はのちに浮世絵にも活かされた。浮世絵はもともとは世間の風俗を描くために登場したヴィジュアル・メディアで、最初は祭礼図や風俗画が多かったのだが、やがて芝居の場面や遊郭の出来事を名所をとりあげるようになって、場面(シーン)と人物(フィギュア)を極端に重視する手法が発達した。さらに歌麿が大首絵(バストショット)をあらわし、北斎や広重が各地の名所を遠近多様な視点で比定させる画法に絶妙な視点をとりいれて、『富嶽三十六景』や『東海道五十三次』などの、日本ならではの多視点パースペクティブが誕生することになった。

もともと日本の絵(大和絵)は、西洋の遠近法とはまったく異なる「ぺったんこ」な二次元画法が得意だったのだが、それが西洋画法が導入されたのちの浮世絵では世界のどこにもない見せ方に達したのである。

このことは近代以降も続き、さらに日本のマンガやアニメの表現法に転用されて、手塚治虫・石森章太郎から萩尾望都・山岸涼子をへて、ガンダム、宮崎駿、押井守、エヴァンゲリオンの隆盛となり、次々にマンガ・アニメブームを支えた。おたくたちの「二次元萌え」も、もともとは絵巻や浮世絵の平成ポップカルチャー化だったと言ってよい。

アニメーションとは「アニマ・モーション」のことをいう。アニマ(魂の正体)が動きだすこと、それがアニメーションだ。もとは線画や影絵によるコマをカメラでコマ撮りすることから始まったのだが、たちまち技術進化して、セル画からクレイアニメやピクシレーションやCGをとりこんだ。日本のばあいは、これらすべてがかつての絵巻や浮世絵の躍如なのである。ダニーローズの浮世絵劇場で、その一端を堪能していただきたい。

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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