館長通信

写真:中道淳

No.012021/01/01

連想が組み合わさっていく

霜月の風を孕んで、角川武蔵野ミュージアムがサクラタウンのど真ん中に開館しました。 隈研吾さんの設計による異様な5層の建物の中には「巨きな函組み」が畳まれ、 そのそれぞれに多様で多彩な「出し物」が迷宮のように組み合わさって、 一度では見物しきれないほどになっています。複合ミュージアムなのです。

コロナ禍のもと、いまだ入場制限をせざるをえないため、多くの来館者や関係者にご迷惑をかけていますが、 さいわいたいへんな話題になっているとのこと、ひとまずホッとしています。 グランドオープンの11月6日の黄昏どき、サクラタウンに光が灯り、 多くの人影が重なりながら映し出されているのを眺めながら、私は岡倉天心がパリで初めて日本画展を開いたときの感想、 「ああ、やっとこれで東洋の片隅に眠っていたものが目を覚ました」を思い出していました。

このミュージアムは日本ではもちろん、世界でもめずらしい「コンテンツが零れるミュージアム」をめざしています。 ふつう、コンテンツは書物や新聞雑誌やテレビや、 PCやユーチューブなどの、印刷・音源・映像・電子メディアの中にアドレスをもって収納されているものなのですが、 このミュージアムではそうしたコンテンツが解き放たれて複合空間に小割りされ、 その場に啓蟄の昆虫たちのように顔を出し、来館者の五感とのまじりあいを促します。 「知覚の拡張」がおこるのです。グランドオープン時の1階の妖怪伏魔殿や4階の本棚劇場のプロジェクション・マッピングでは、 コンテンツがどんなふうに零れて空間とまじっていくか、少し愉しんでもらえたと思います。 けれども、このような試みはまだまだ始まったばかりで、これからはもっとアメージングなものをお目にかける予定です。

その一方で、このミュージアムは世界や地域をまたぐ歴史と話題に深く接してもらえる「カルチュラル・ミュージアム」でもありたいのです。 それゆえ、ここは「複合文化のミュージアム」でもあるのです。それを体現しているのが4階のエディットタウンと5階の武蔵野回廊です。 エディットタウンでは2万5000冊のめぼしい本が9つの書域に分かれて賑やかなブックストリートになり、高さ8メートルに及ぶ本棚劇場に到達します。 そこから荒俣コレクションがひしめく階段を上がると武蔵野回廊となり、何百年、いや何万年もの武蔵野の記憶がさまざまに蘇るようになっています。

本は世界の歴史を集積したコンテンツの王様ですが、 エディットタウンと荒俣コレクションと武蔵野回廊が、 その時間と空間を集約しているのです。

このミュージアムで一番大事にしたいのは、来館者のみなさんとのインタラクティブな交流なのです。 コロナ禍ではありますが、ぜひとも何度も来館していただいて、複合文化のいろいろなコンテンツと出会い、 さまざまな「アソシエーション」(=連想、組み合わせ)を愉しんでください。 私は編集工学を提唱してきた者ですが、その主旨は「想像力は連想にこそ始まる」というところにあります。 この館長通信では、そのことをいろいろ解説していきたいと思います。角川武蔵野ミュージアムは「アミュージアム」であって、 「アソシエート・ミュージアム」なのです。ア! あっ!

角川武蔵野ミュージアム館長
松岡正剛
(Seigow MATSUOKA)

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