館長通信

No.132026/1/15
いまこそ文化の力を
日中関係が悪化しています。歴史問題をめぐり、あるいは台湾をめぐって緊張してきたことは過去にもありますが、同時に文化交流にも大きな影響が出ていることは、とても残念です。
隣り合った国家間では、交流や対立が起こり得ること。長い歴史の中で仕方のないことではありますが、こういうときこそ文化的な交流に支障が出てはいけないのです。
過去に角川源義は、角川文庫創設に当たって、こう書いています。 「第二次世界大戦の敗北は、軍事力の敗北であった以上に、私たちの若い文化力の敗退であった。私たちの文化が戦争に対して如何に無力であり、単なるあだ花に過ぎなかったかを、私たちは身を以て体験し痛感した」
もちろん現在の日中関係は「戦争」ではありませんが、政治的な対立に対して「文化力」の弱さを痛感します。私たちは、これまで通りの交流を望んでいるのですが、浜崎あゆみのコンサートが突然中止になったり、甚だしきは大槻マキの歌唱中に電源が切られたりするという事態まで起きました。
いくら中央政府が強い抗議を出したからといって、浜崎あゆみや大槻マキのコンサートに口出しすることはないでしょうから、現場レベルで「上」に対する忖度があったのでしょう。仮に保身のために忖度してコンサートを中止させたのであれば、その行動は悲しく思います。「政治は政治、音楽は音楽」という腹が据わった判断ができるか否か、こんなときにこそ「文化力」が試されるのですが。
国家間の対立は起きるもの。ですが、日中の間には過去に長い交流の歴史があり、互いに文化を学び合ってきました。こういうときこそ、互いの文化力が試されるのだということを確認しましょう。そして中国には政治に左右されない、政治に負けない文化力の構築を願ってやみません。
角川武蔵野ミュージアム館長
池上 彰
