館長通信

No.122025/12/15
へたも絵のうち
当ミュージアムも開館5周年を迎えました。多くの人に支えられたことに感謝しています。
お客様から見えない所にスタッフの作業所や事務所があり、日々次の企画を考えたり、企画を実現するための段取りを進めたりしています。その過程で、ユニークな展示が生まれます。12月20日(土)から来年3月まで開かれる熊谷守一の展覧会もその一つです。題して「熊谷守一 へたも絵のうち」。なんだか励まされるタイトルではありませんか。
この題は、熊谷が日本経済新聞の「私の履歴書」に連載した自伝をまとめた書籍から来ています。
熊谷は、晩年になってこそ世の中から認められますが、若い頃は赤貧に苦しみ、病気になった我が子を医者に診せる費用にも事欠き、5人の子のうち3人が夭逝しています。
でも、彼の作品には、そんな暗さがありません。明るい色彩と伸びやかなタッチは、見る人の気持ちを明るくさせます。「へたも絵のうち」と言っているだけあって、現代風に言うと「ヘタウマ」とでも評すべきでしょうか、まるで子どもが描いたような作風に見えるのですが、感情を呼び起こす力があります。
晩年の熊谷は、その存在が世間に知られても名声に執着せず、文化勲章も叙勲も辞退。晩年の20年間は家から出ることなく、狭い庭で自然を観察して過ごしていたといいます。猫を何匹も飼っていて、猫の絵が多いのも特徴です。
展示品は多くはありませんが、どうぞゆっくりと鑑賞してください。師走で気ぜわしい季節ですが、「おや、こんな展示もしているんだ」と気づいていただけると嬉しいです。
そして、「もっと見たい」と思われた方は、豊島区の「熊谷守一美術館」にも立ち寄っていただければ。
角川武蔵野ミュージアム館長
池上 彰
