館長通信

No.142026/2/15
「民主主義」ってなんだろう
アメリカは民主主義の国。そう素朴に信じていた頃が懐かしい。トランプ大統領が当選すると、従来の慣例を無視してやりたい放題。本来なら大統領個人が暴走しても、それにブレーキをかける仕組みが存在していたのですが、それを次々に吹き飛ばしています。
民主主義を維持する上で重要な役割を果たすのは三権分立ですが、議会はトランプ大統領の顔色をうかがう共和党が過半数を占めて大統領の言動に唯々諾々と従っています。大統領の方針に疑義を挟む共和党議員は、トランプ支持者から脅迫を受けて沈黙を余儀なくされるのです。
これがアメリカの民主主義なのか。愕然とする気持ちで書店を徘徊していて見つけた書が、森絵都さんの小説『デモクラシーのいろは』(KADOKAWA)でした。
舞台は1946年11月の東京・下落合。戦火を逃れた邸宅に集められた4人の女性たちは、「民主主義」について学ぶことになります。日本を占領したGHQですが、日本で民主化が進まないことに焦り、日本の女性に民主主義教育を施すことが有効かどうかを実験することにしたのです。
教師役に選ばれたのは、日系二世のアメリカ兵リュウ。日本語も英語も流暢ですから、教師にふさわしいと選ばれたのでしょうが、個性豊かで生い立ちもバラバラの4人の女性を前に悪戦苦闘が始まります。
リュウは、アメリカ式民主主義の素晴らしを教えながらも、日系人たちが米国籍なのに「敵性国民」として強制収容所に入れられた事実を思い起こします。「果たしてアメリカは民主主義の国なのだろうか」と疑問を抱きながらデモクラシーの大切さを教えなければならないジレンマ。なんだか現代を見るようです。
本書を読んでいる最中にもトランプ大統領はせっせとアメリカの民主主義を破壊しています。民主主義とはひ弱なもの。人々が必死になって守らないと枯れてしまうもの。いまのアメリカを観察することこそが、「デモクラシーのいろは」を学ぶことになるようです。
角川武蔵野ミュージアム館長
池上 彰
