館長通信

No.212026/10/15
「グローバルサウス」とはどこのことか
「グローバルサウスと言っても、それぞれの国の経済力には大きな違いがあり、ひとくくりにはできない。いっそエマージングワールドと呼んだらどうか」
先日、東京で開かれた「フォーリンプレスセンター創立50周年記念国際ジャーナリスト会議」での出席者の発言でした。
「フォーリンプレスセンター」とは、日本を取材する外国メディアに情報を提供したり、取材に協力したりするために設立された公益財団法人です。設立から50年を迎えたのを記念して、外国メディアのジャーナリストと日本人ジャーナリストによるシンポジウムが開かれ、私も参加しました。
外国メディアはアメリカ、イギリス、インド、インドネシア、ブラジルの新聞記者やテレビ局のキャスターです。このうちインド、インドネシア、ブラジルは、最近の表現で言えば「グローバルサウス」に分類されるでしょう。なぜ「グローバルサウス」が注目されているかといえば、アメリカ、ロシア、中国の3か国への対抗軸となるのではないかという問題意識があるからです。3か国は、大国であることをいいことに傍若無人の振る舞いをしていて、まるで世界が「ジャングルの掟」によって支配されているかの様相を呈しているからです。
第二次世界大戦後の世界は、東西冷戦が長く続き、アメリカとソ連という二大国家が睨み合う国際秩序が形成されていました。東西冷戦の終結後はアメリカ一強の時代が続きましたが、最近はアメリカの力が弱まる一方、武力を振るうロシアと経済力で世界を脅かす中国という構図が生まれました。
そのほかの国は何もできないまま無力感に襲われている気配がありましたが、最近、カナダのカーニー首相が「ミドルパワーの結集」を呼びかけました。ここに、新しい国際秩序結成の可能性が見られるからです。
軍事力や経済力で巨大な力を持つ3か国(ロシアは経済力では見劣りしますが)、世界を支配しようとしているときに、何ができるのかという問題意識です。ここで「ミドルパワー」に該当する国家はどこか。具体的な国名が出ているわけではありませんが、提唱したカナダに加え、オーストラリアやイギリス、フランス、ドイツ、イタリア、スペインなどが含まれるのでしょうか。もちろん日本もその中に入ります。いわば中堅国家が団結すれば、それなりに存在感を示すことができるというわけです。
そして「グローバルサウス」です。この国々は、かつては「開発途上国」「南の国」と言われて低く見られていましたが、最近の経済発展ぶりは目覚ましく、開発途上国の枠には収まりきれなくなっていることから、こう呼ばれるようになりました。しかし、今回のシンポジウムで、「グローバルサウス」の国々から参加したインド、インドネシア、ブラジルのジャーナリストたちは、「グローバルサウスの国々は経済力に大きな差があり、ひとくくりにされても意味がない。ここはエマージングワールドと呼んだらどうか」という提起があったのです。
「エマージング」とは急速に発展する、という意味です。「急速に発展する世界」という呼び名であれば、個々の国々の経済成長には差があっても、全体への呼称として成り立つ気がします。
ただ、「ミドルパワー」の国々からすると、インドはロシアから大量に石油を輸入していますし、インドネシアの中国への傾斜ぶりなどを見ると、3か国に寄り過ぎているのではないかと見えてしまいます。そう考えると、グローバルサウスは信用できないと考える人たちも出そうです。
とはいえ、ミドルパワーの国々が力を発揮するには、グローバルサウスの国々との連携が不可欠です。
そこで、考え方を切り替えなければならないと痛感したのが、今回のシンポジウムでした。グローバルサウスとひとくくりにするのではなく、ひとつひとつの国を「急速に発展する国」として捉え直し、それぞれの国との協力関係を再構築する必要があるのだろうと思います。
ただ、「エマージングワールド」の国々でも、新聞が読まれなくなり、多くの国民がスマホでSNSに夢中となり、国内に分断が広がっているとメディアの苦境を報告してくれました。「国内に分断が広がる」というのは、どこの国にも共通する宿痾になってしまっています。今後は、「グローバルに広がる分断の波」という“共通の壁”とどう向き合うか。その問題意識を共有することで、なんらかの連帯が生まれる可能性があるように感じたのです。
角川武蔵野ミュージアム館長
池上 彰
