館長通信

No.202026/9/15
AIとどう付き合うか
この夏も複数の大学で集中講義をしています。各大学の先生たちと話すテーマで必ず登場するのがAIとの付き合い方です。過去には学生にリポート提出の課題を出すのは当然のことだったのですが、いまやそうした課題を書く際に、ほとんどの学生はAIに相談しています。結果、それなりにきちんとまとまったリポートが提出されます(されてしまいます)。先日、ある大学の教授が、学生の提出したリポートがよくできていたので、思わず「これはAIに書かせたの?」と尋ねてしまい、学生が憤然となって「自分で書きました」と抗議したそうです。
この学生はいいのですが、多くの学生はAIに書かせてしまうため、力がつきません。リポートの文章をワープロソフトで書かせると、AIの文章をそのままコピペしてしまう学生が続出するので、ある大学の先生が「リポートは手書きで提出しなさい」と条件を出したところ、学生はAIの回答を手書きで写しとって書いたそうです。
その際、学生はAIが出した回答だということが教授にわからないようにするため、所々に敢えて誤字や脱字をまぶして書いたのだそうです。AIは誤字脱字をしませんからね。誤字や脱字があると、「これは人間が書いたのだな」と思ってしまうからだそうです。
それでも大学の先生たちに聞くと、AIに書かせた文章というのは、だいたいわかってしまうそうなのです。
というのも、AIが出した文章は、理路整然としているのですが、読み手の心に刺さらないからなのだそうです。血が通っていないとでも言いましょうか、説得力を感じさせないのです。
私も、現在日本社会が抱えている問題や課題についてAIに問いかけるという出版社の企画を続けています。この企画でAIに回答を求めると、「お説ごもっとも」としか言いようのない答えばかりです。内容として過不足ないのですが、読んでも面白くないし、問題点を表面的になぞっているだけ、というのがわかってしまうのです。
また、最近はテレビのニュースで「AIが原稿を読み上げる」という演出も目立ってきました。ところが、AIアナウンサーが読み上げる原稿は、たしかに嚙むことなくスムーズに聞くことができるのですが、聞き終わった後で、内容がまったく記憶に残らないのです。人間のアナウンサーが読むと、ときに噛んでしまいますが、それでも内容は頭に入ってきます。文章にしても読み上げにしても、AIには説得力がありません。まるで原稿の内容を理解しないまま棒読みしているように思えるのです。
たしかにAIは、自分が読み上げる文章の内容を理解していないから、こういう状況になってしまうのかと思うようになりました。今後、AIがこうした欠点を解消することが可能かどうか、意見や見通しは多様です。
文部科学省は8月31日、2030年度以降に全面導入される学習指導要領の素案を発表しました。それによると、全教科で「情報活用能力に関する学習」が重視されています。つまりここにAIを有効に使った学習が入るのです。AIとどう付き合うことができるのか。大学生でもむずかしいことなのに、小学生が可能だろうかと懐疑的になってしまいます。AIに問いかけることができる能力は、どこで獲得できるのか、という皮肉な質問を出したくなってしまうのです。
角川武蔵野ミュージアム館長
池上 彰
